CASE30人材育成で
社内文化を変える
「NTT East College」
の挑戦

東日本電信電話株式会社NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE EAST CORPORATION

インタビュー風景

人的資本経営が叫ばれる昨今、企業は自社の社会におけるパーパスを捉え直すとともに、社員一人ひとりがキャリアを自律的に考えられる土壌づくりを行う必要性が増しています。「経営戦略と人事戦略を統合していく」といっても、どのように仕組みを作り、自社に文化として浸透させていくかは、企業ごとにさまざまな可能性があることでしょう。その好例としてご紹介したい施策が、NTT東日本が2023年度に設立した企業内大学「NTT East College」です。どのような背景で立ち上がり、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

「つなぐDNA」をアップデートし、新価値創造企業になる

ー現在の御社を取り巻く経営環境や事業環境について教えてください。

松前:弊社は従来から固定電話や光通信といった地域の通信インフラを支えるICT企業としてやってきましたが、これを継続しながら、将来的には生活者や企業など、地域の未来を支えられる価値創造事業に転換していくことを目指しています。 弊社はグループ全体で約3万人が在籍し、各県に支店があります。インフラを支える地域密着型の人的アセットを活かして、東日本大震災での支援をはじめ、これまでも地域に寄り添った活動を展開してきました。人と人、人と地域をはじめ、「つなぐ」ことは弊社の使命であり、DNA。こうした姿勢は社内にも浸透しています。

ー近年は人的資本経営の流れもあり、経営戦略と人事戦略を一致させていくことが重視されています。
将来的に「つなぐDNA」を進化させた経営戦略を実現するために、どのような人事戦略を練ったのでしょうか。

松前:全く新しい事業や価値を創造していくわけですから、変革を起こすことができる人を育成しなくてはならないと考えました。もう一つ重視していたことが、社員のチャレンジを後押しする社内文化の醸成です。旧来の枠に捉われていては、新しい分野への視野は広がりません。社員一人ひとりのチャレンジ精神を支え、新価値創造を止めないカルチャーを作っていかなければならないと思っていました。

ー人材育成施策として設計するとき、現状と目指す方向のギャップをどのように埋めていきましたか?

松前:既存の人材育成体系は一定の年次や階層に対して同じカリキュラムを実施するといったような、どちらかといえば画一的なものでした。今の役割に対し、この先1年ぐらいを見据えたスキルを身につけてもらうには有効で、これはこれで必要ではありますが、事業環境が変わりつつある中、5年後、10年後を見据えた育成をやっていかなければ新たな事業領域で通用する人材は生まれません。 それから、弊社の場合は縦割り的な文化が強く、横のつながりが希薄になりがちです。組織が大きいですし、そのようにならざるを得ない反面、新価値を創造していくには従来の組織内だけでできることは限られるはずです。組織を横断して巻き込みながらリードできる人を育成したいと考えていました。このような背景からNTT East Collegeが生まれました。

総務人事部人材開発部門 HRキャリアデザイン担当 担当課長 松前貴洋 氏
総務人事部 人材開発部門
HRキャリアデザイン担当 担当課長
松前貴洋 氏

公募型育成プログラム
「NTT East College」

ーNTT East Collegeの全体像を教えてください。

松前:二つのコースを設けています。一つは管理者手前層くらいを対象としたNext Generation Executiveコース、もう一つは入社2年目から係長手前層向けのFundamentalコースです。いずれも参加は完全に手挙げ制で、年次や階層は問いません。 前者のコースは将来的に経営層になる・ならないにかかわらず、経営的な部分を理解してもらいながら自分なりのリーダーシップスタイルを見つけてもらうことに主軸を置いています。後者については、社会人基礎力の強化と、リーダーシップや実践力など個の能力を開発することを目指しています。

ーNTT East Collegeの立ち上げにあたって、苦労した点は?

小野:NTT East Collegeは社長からも賛同が得られた施策でした。ただ、弊社の場合、自分から研修に参加するという文化が育っておらず、手挙げして研修に参加するのは意識の高い人だけという見方をされやすかったのです。 これからは研修に限らず、NTT East Collegeをきっかけに自分から新しいことにチャレンジしやすい文化を根付かせたいと思っていました。まずはNTT East Collegeのイメージを浸透させようと、ロゴマークを作って存在を認識してもらうことに始まり、社長にも協力を仰いで社員へのメッセージ動画を制作しました。トップダウンだけでなく、ボトムアップも必要だと考え、各種越境研修への参加経験のある社員の声を集めて「これまでの研修とは違う」「ここでなら面白いことができそうだ」と感じてもらえるように、地道に周知活動を進めていきました。その結果、Fundamentalコース1期生は100名を超える人数から応募がありました。

若手層向けに「個」の能力を磨き上げる
プログラムを実施

総務人事部人材開発部門 HRディベロップメント担当 小野なつみ 氏
総務人事部 人材開発部門
HRディベロップメント担当
小野なつみ 氏

―若手層の育成に力を入れていることは御社の人材施策の特色の一つです。

小野:事業成長をリードできる人材の育成と、枠に捉われずに新しいことを創出していく社内文化をつくっていくためにも、若手のうちから新しいものにチャレンジする心構えを身につけるためにFundamentalコースを設けました。 アセスメント結果から、弊社の若手社員の傾向として傾聴力や規律性といった指示されたことの実行力はあるものの、リーダーシップや革新性といった、弊社の将来のために必ず必要となる力が弱いことがわかっていました。これまでもリーダーシップ育成に向けた階層別研修は行ってきたにもかかわらず、なぜ伸び悩んでいるのか。そこで思い至ったのは、画一的な研修だけでは個の弱みや強みにフォーカスしきれていなかったということです。そこで、現状のスキルを客観的に把握し、その上で伸ばしたいスキルを個々で考えてもらう建付けにしています。

ー人材育成をする側から基準を提示するのでなく、本人が自覚していけるように促していったのですね。

小野:Fundamentalは「社会人基礎力特化プログラム」、リーダーシップ向上や社外感覚をはぐくむ「社外交流イノベーションプログラム」、「サポートプログラム」の3つで構成しています。まずはアセスメントを受けてもらい、社会人基礎力を把握したうえで自分が伸ばしたいスキルを個々で考察し、必要な研修を自分で選んで受講できる仕組みをとっています。NTT East Collegeという名の通り、大学で学びたい科目を選択するような感覚ですね。例えば「社外交流イノベーションプログラム」では、全受講者に越境学習の機会を提供していますが、15のプログラムから受講者本人が選べるようにしています。 加えて、越境学習を経験した社員をメンター役につけ、振り返りや学びをいかに職場に持ち帰るかなど、1on1でのサポートも行っています。

越境学習にしかできない
成長のチャンスがある

ーFundamentalコースで越境学習を取り入れています。
若手層が越境することで、どのような効果を期待していたのでしょうか。

松前:越境学習では異業種メンバーと共に自治体の課題解決に取り組んでもらいます。実は、これには「市民の声を聞きにいく」という狙いもありました。先にも出たように、弊社は地域に寄り添った事業を目指しているものの、現段階で地域の課題やニーズを十分につかめているかといえば、まだまだこれからというのが正直なところです。研修というかたちではありますが、地域に入り込んで市民の方の生の声を拾うことは、若手層の今後の業務に役立つはずです。新たな事業を生み出す契機になることを期待しています。

大野:それから、普段の業務では社外感覚を身につける機会がほぼないのです。他社の方と交流したり、外の考え方や価値観に触れることで、自社の事業変革に役立ててもらえるのではないかと考えていました。

総務人事部人材開発部門 HRディベロップメント担当 大野茉莉 氏
総務人事部 人材開発部門
HRディベロップメント担当
大野茉莉 氏

ー受講者の皆さんの反応は?

大野:我々が思っていた以上に刺激を受けたようでした。アンケートで「越境学習を同僚や後輩に勧めたいか」という質問をしたところ、90%以上が「勧めたい」と回答しています。「自社とは異なる文化や考え方を間近にできて、良い学びとなった」「社内では得難い刺激を受けた」など、前向きな声が上がりました。

小野:ほかにも「会社にいては気づけなかった自分の強みがわかるようになった」という意見が寄せられています。事前のアセスメントの結果では「若手社員の自己肯定感の低さ」が目立っていました。若手であるがゆえ、上司の前では遠慮してしまったり、自分の意見を言い出しにくいこともあったと思います。しかし、越境先では社外の、さらには年次も経験値も上の方々と同じ目線に立って意見を出し合う場面がたびたびあって、「アイデアを交わしたり、周囲を巻き込んだりしながら共創できることが面白かった」と話してくれた受講者もいました。これは社内の階層別研修では成し得なかった成果でしたね。ぜひ職場でも活かしてもらえたらと思っています。

大野:振り返ってみると、私自身も大きな収穫がありました。私は越境学習の経験がまだないのですが、他社の育成担当者とやり取りする機会があり、さまざまな企業の社風や文化を知ることができました。視野が一気に広がり、社外に一歩踏み出すだけで価値観が大きく変わることを実感しました。運営サイドとはいえ、他社の皆さんと同じ目的に向かって走ったことは、どこか越境学習に通じるものがあったように思っています。

インタビュー風景

人材育成をする側である
自分たちから変わらなければ

ーNTT East Collegeは2024年度に第2期を迎えました。今後の展望を教えてください。

小野:受講者のその後を継続して見ていきたいです。「NTT East Collegeを経た社員のほうが早くリーダーになる」など、長い目で捉えながら効果を定量的に把握していきたいと思っています。 上長や職場の理解浸透は早急に考えていかなければならないところです。1期生の中には「また研修に行っているのか」といったように、周囲からスムーズに理解が得られなかったケースもあったようです。第2期でも約100名の応募がありましたが、すべての社員がチャレンジしたいときに前向きに手を挙げられるような文化を醸成していくにはどうすればいいのか、早急に検討を重ねていきたいです。

大野:プログラム間の交流を活発にしていきたいですね。第1期の受講者は同一プログラム内での交流に終始してしまいましたが、第2期以降はプログラムの垣根を越えてお互いの学びや体験をシェアする機会を設ける予定です。

松前:ブラッシュアップすべき点はあるとはいえ、NTT East Collegeを構築する過程で、人材の育成やマネジメントの方法を体系化できたのではないかと自負しています。テクニカルな専門性を伸ばすだけでなく、ヒューマンスキルや人間力を伸ばし続けることの重要性を社内全体で理解してもらい、NTT East Collegeのアプローチを各職場で実行できるようになることが理想ですね。育成やマネジメントの新しい文化をつくるといったら大げさかもしれませんが、目指すところはそこにあります。

ーNTT East College設立の目的の一つに「新しい文化を創出できる人を育成したい」という思いがありました。
お話を伺っていると、まずは人材育成を行う側である皆さん自身が文化を切り拓く気概を持っていたことが感じられます。

小野:そうかもしれません。ここ数年、弊社の中で人的資本の重要性が高まり、組織が見直されたり、NTT East Collegeが生まれたりしました。実は、もともと私はNTT East Collegeのメイン担当ではありませんでしたが、面白そうなことをやっているなと思って、自分から名乗りを上げて参加に至っています。大野さんもそうです。今では全社を横断して、さらにはNTT東日本グループ会社の人事や育成担当者の方も巻き込みながら、NTT East Collegeを推進していこうという動きも出てきています。

松前:従来の組織や育成の良い部分は受け継ぎつつも、枠に捉われずにやっていきたいですね。人を変えるには、まずは自分たちが変わるべきだと思っています。

インタビュー風景

何事も新しいことを生み出すには、チャレンジと試行錯誤の繰り返し。自社が目指す将来像に向けて、まずは人材育成を行う側から変革を起こし、臆することなく社内を巻き込みながらダイナミックに取り組みを推進する姿勢が印象的でした。

※NTT東日本さまも参加されている当社の越境学習“GIFT”はこちらから詳細ご確認ください。

東日本電信電話

人材育成で社内文化を変える
「NTT East College」の挑戦

CASE30東日本電信電話

岡谷鋼機

好奇心を刺激し、視野を広げる
自文化理解研修

CASE29岡谷鋼機

三井住友信託銀行

多国籍のビジネスリーダーと
対峙できるマインドとスキルを鍛える

CASE28三井住友信託銀行

大月市役所

官と民の共創が生み出す
創発効果

CASE27大月市役所

東京都教育庁 起業創業ラボ

共創が生む
新しい教育のかたち

CASE26東京都教育庁 起業創業ラボ

野村ホールディングス

ファイナンス部門が取り組む
「専門性×グローバル」
両利きの人材育成

CASE25野村ホールディングス

伊藤忠テクノソリューションズ

変化の激しいIT業界
未来を見据えたグローバル人材育成

CASE24伊藤忠テクノソリューションズ

NTTドコモ

新入社員のリモートワーク適応
職場と育成をいかに連動させるのか

CASE23NTTドコモ

エヌ・ティ・ティ・データ

DXの意識と行動の浸透
顧客と共に創出する未来

CASE22エヌ・ティ・ティ・データ

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トップブランドを目指す“Kao”の
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CASE21花王

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CASE20東京海上日動火災保険

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「オンライン」と「リアル」の違い

CASE19バンダイナムコアミューズメント

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CASE18住友商事

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CASE16サントリーホールディングス

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CASE15アドヴィックス

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CASE13サンゲツ

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CASE12東京急行電鉄

日清食品株式会社

フィードバック文化を育む
成長実感会議

CASE11日清食品

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CASE10Dell EMC

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CASE09豊田市役所

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ナナメの関係で
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CASE08北上市 子ども創造塾事業

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CASE07横河電機 情報システム本部

ジェイティ奨学財団

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CASE06ジェイティ奨学財団

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チーム医療を学ぶ
カリキュラム作りへの挑戦

CASE05三重大学・鈴鹿医療科学大学

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ALP活動の狙いと効果

CASE04住友金属鉱山

東京海上日動火災保険

若手 × 階層別研修 × 海外体験

CASE03東京海上日動火災保険

パーソルキャリア

会社を飛び出して学び
会社の仕事に活かす

CASE02パーソルキャリア

サントリーホールディングス

海外トレーニー経験で
グローバル人材は育つ

CASE01サントリーホールディングス

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