CASE27官と民の共創が生み出す
創発効果
大月市役所Otsuki City Hall
官民合同チームで自治体が抱える課題の解決に向けた提案を行い、次世代リーダーとしての個人の成長機会とするプロジェクト型学習プログラムに取り組んだ山梨県大月市。
企業でも社会課題に向き合うことが経営上で重視されるようになった今、官民が互いに越境したことで多くの気づきが得られました。
民ならではのノウハウや
スピード感を間近に
ー官民連携の人材育成に取り組んだ背景を
教えてください。
小林:次世代リーダー育成について考えていた矢先、官民連携事業研究所(次世代を担う官民クロスボーダー型人材の育成事業をウィル・シードと共同展開)を通じて、官(行政)と民(企業)が連携して課題解決に取り組むプログラムがあることを知りました。
小林 信保 氏
※ 肩書はプログラム実施当時のものです。
今回、我々とは全く畑違いである世界に冠たる技術系企業とご一緒させていただきましたが、行政職にはないノウハウやスピード感を間近にできることは魅力でした。日本の課題解決に取り組んできた企業ですから、人々のニーズを捉えて新しいものを作り出してきた見地や姿勢は、今後、我々が地域の課題を解決していく上で大いに参考になるのではないかと感じました。
例えばDXを推進する企業の方と話していると、何事においても行政と違うことを感じていました。行政では会議一つとっても、次なるアクションを起こすための話し合いというよりは、波風が立たないように何事もなく進めたいといったように、保守的な面があることがぬぐえません。
行政が絶対に失敗が許されない立場にあるからではありますが、企業と比較すると、物事を決定するスピードに圧倒的な差があることが気になっていました。
企業同士だけでなく、
官と民という越境もある
ー「畑違い」といった意味では、
越境学習の効果も期待できます。
天野:従来の研修や他自治体への派遣ですと、そこには自分たちと同じ行政職員しかおらず、企業と相対する研修は前例がありませんでした。これだけ課題が山積する今、官の枠を超えて物事を捉えていくことが欠かせないと考えていました。
私たちは普段の業務を通じ、地域やそこに暮らす人々と直に向き合っており、自分たちの仕事が社会や人に直結していることの責任ややりがいを日頃から感じています。それはどのような仕事にもあるはずですが、企業の場合、具体的にどのように社会と結びついているのか、自社の社会的意義はどこにあるのかを肌感覚として捉えにくい面もあると思うのです。
ー企業側の参加者にとって、現業を離れて社会課題に向き合う機会になったことがうかがえます。
今回、取り組んだプロジェクトは「2030年までに小学校1学年の生徒数を大月市全体で100名の状態にする」。
大月市が提示したテーマでした。
小林:大月市の現状をお伝えしたまでとも言えますが、少子化の進む中で小学校を維持していくことが困難な状況にあることは、他の地方自治体も同様です。いわば、日本全国で起きている社会課題です。都心で働くビジネスパーソンは
リアリティを持ちにくいですし、逆に新鮮に感じられたのではないかと思います。仕事としてでなく、社会の一員として日本の課題に触れる機会にもなったのではないでしょうか。
天野:プログラム期間は約2ヵ月間と限られていますから、人口減少という課題の中でも検討しやすいように、焦点を絞ったほうが結論を導きやすいのではないかという思いもありました。
ただ、興味深いこともありました。提案を練る段階で、他の地方自治体で人口減少に対してどのような施策が打たれているかについて、データだけを見て「ああでもない、こうでもない」と、話し合いながら仮説を立てていたそうです。すると、大月市側の参加者が「その自治体に電話をして何をしているのかを聞いてしまいましょう」と、その場で連絡をとって他の参加者がその行動力に驚き、新鮮に感じたことがあったと聞いています。
天野 工 氏
※ 肩書はプログラム実施当時のものです。
小林:我々のほうこそ腰が重いのだと思っていましたが、ひょっとしたら、企業はデータを重視するあまり、数字にとらわれすぎたり、頭で考えすぎたりしているのかもしれません。行政は、自治体間で競争があるとは言いながらも同じ課題を
持っていて、互いに仲間意識を感じています。ですから、こうした行動を起こしやすいということはあります。
企業の場合、他の会社はライバルですから、同じようにはいかないかもしれませんが、企業にはないフットワークの軽さや課題に対する多様なアプローチ方法を目の当たりにしてもらえたようでした。
ー初動の起こし方が異なれば、
結論の幅も広げられます。
小林:最終的にあげられた提案の一つに「市役所内のコミュニケーションを活発化する」というものがありました。少子化という課題解決に対し市役所内部のコミュニケーションを活発にせよという提案は、我々だけでは生まれていなかったアイデアだと思いましたし、まさに官民共創ならではの視点だと驚かされました。
また、他の提案についても少子化対策に行き着くというロジックも綿密に立てられていました。人口問題は分かりやすい政策に落とし込めばすぐに解決できるものではありません。現状の的確な分析にもとづき、過大な目標設定をせず、確実に目標を達成するには何が必要かをきちんと落とし込んでありました。
実現性が全くないような計画や手法ではなく、しっかりとした現状認識、課題の把握、そして、充実した議論があったことを感じました。
立場を超えて、リアリティを持って
社会課題に向き合う
ー参加者の反応は、いかがでしたか?
小林:参加した職員は、かなり前向きになっています。これを機に職員全体の意識を上げられないかと期待しています。例えば、このプログラムから生まれた提案を少しずつでも現実化していくことで、今回は参加していなかった職員でも「考えを提案すれば、取り上げてもらえるのかもしれない」と、自覚できるようになるのかもしれません。
天野:連携先企業から得たものは大きかったようです。実務的なこと一つとっても、資料のつくり方やフレームワークなども「こういうやり方があるのだ」といったように、ビジネススキル向上にも役立ったという意見が上がっています。
業務に対する意識も大きく変わりました。「行政職員に期待される『全体の奉仕者』という立場にとらわれすぎていたり、国や県からの業務をこなすことを重視していた面があったが、自分がやりたいことを提案し、仕事にしていってもいいのだと気づいた」という感想も寄せられました。
小林:連携先企業の参加者から「社会問題をここまで深く考えたのは初めてだったが、業務で実施している『事実→仮説→検証』といったサイクルは社会問題を考えるときにも通用する部分があり、社内の諸問題についても同様に考察していきたい」といった意見をいただきました。
こちらから差し出せるものがあるのだろうかと思っていましたが、双方にメリットや気づきがあったことは、このプログラムの大きな意義でした。
ー官民連携について、行政の立場から
企業に期待することがあれば教えてください。
小林:連携先企業の普段の業務に近いテーマであれば、互いにWin-Winの関係になることも期待できます。今回のテーマの少子化対策の場合、子育て世代や子ども向けのソリューションやサービスを提供している企業と連携することで、また違った視点の結論が出てくるのではないかと思っています。
天野:1社とだけやるのではなく、複数企業と取り組むことも面白そうです。民間の企業であれば、全く畑違いであっても我々にはメリットがあることを実感しています。
このプログラムでは、官民の立場を超えて全員が本音でぶつかり合っていたことが印象的でした。普段の業務とは違って、いわゆる行政職に携わる人間としてではなく、既存のやり方や思考の枠を超えてテーマに向き合っていて、今までにないタイプの研修だったと思います。
企業側の参加者にとっては、社会参画の入口になったのではないでしょうか。
小林:連携先企業の参加者が今回のようなプログラムを通じて社会課題に踏み込むからこそ見えてくる問題の複雑さを実感することで、では、現業で自分にできることは何かと考えるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。
競争が激化する今、高い視座や広い視野で領域を横断した挑戦を仕掛けていける次世代リーダーを生み出すには、さまざまな力が求められます。課題を抱える足元の社会を見つめながら、多様な立場の人々と共創していくことで、あらゆるステークホルダーを巻き込みながら複雑な問題を解決して事業を推進できる力が養われるはずです。
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