CASE11フィードバック文化を
育む
成長実感会議
日清食品株式会社NISSIN FOOD PRODUCTS CO., LTD.
目的としての成長実感、
手段としてのフィードバック
ーまずは、今回の取り組みの背景を教えてください。
三浦:きっかけは、安藤徳隆(取締役副社長COO)が日清食品株式会社社長に就任したことです。以来、毎年4~5月に全国支店及び工場を自分の足で歩き、自分の口で方針を発信しています。初年度、自分の目で見たことや意識調査を分析してわかったことは、上意下達の風土や、強いブランドに頼ったままでも業績が上がる“ぬるま湯”環境でした。
この状況を打開する打ち出し方を熟慮・検討し、「成長実感」というキーワードが生まれました。成長とは「今日の飯を食うための成長」と「新しい飯の種を創っていくための成長」。社員一人ひとりがこの成長を常に感じられるようになることが、私たちの目指す「成長実感カンパニー」です。
そして「実感とはどういう状態か」「どうすればもっとも成長を実感できるのか」を議論し、正解かどうかは別にして、上司のみならず、同僚や部下からもフィードバックされることが必要だと考えました。
三浦 康久 氏
ーフィードバックの仕組みには様々な形があります。
今回どのような仕組みを取り入れたのでしょうか。
三浦:当社には従来から360度評価など、管理職がフィードバックを受ける仕組みは幾つもありました。ユニークな取り組みとして、年に1回、管理職一人ひとりが経営トップと面談する仕組みもあります。上場企業としては珍しい熱の入れようだと思います。
もう一つ「解剖会議」という責任所在を明らかにする仕組みもあります。ある商品を出すと、必ずヒットかハズレかという結果が生まれます。その時、マーケティング部長・生産部長・営業部長…と関係者全員が並び、○○のおかげでいくらの利益・損失に繋がったと、その責任を明らかにするのです。この会議もフィードバックの1つでしょう。
しかし今回、安藤が着目したのは一般社員クラスの成長実感、そしてフィードバックです。これまでも評価面談という枠組みで、フィードバックを受ける機会はありました。しかし、上手く機能しているとは言いがたかった。上司に「やってますか」と聞くと「やってます」と答えるのですが、部下側に聞くと「3分程度の面談ではフィードバックとは言わないです」「どこをどうしたら評価されるという具体的な話はありません」と返ってきます。つまり、質の伴わないフィードバックも多かったのです。
管理職が部下一人ひとりを
プレゼンテーション
ー形骸化しつつあった評価面談をてこ入れしたようにも聞こえます。何をどのように変えたのでしょうか。
三浦:従来は人事部から「こういうやり方で評価とフィードバックをお願いします」と伝えていただけなので、その質は個々の支店長や部長の方針・マネジメント力に左右されていました。そこで昨年から、「成長実感会議」を始めました。営業現場の所長・課長が、上司である支店長・部長に対して、部下の評価をプレゼンテーションする会議です。人事もファシリテーターとして参加する場で、所長・課長は部下1人当たり20分間のアピールをし、上長からの様々な角度の質問に応え、また一人ひとりの成長への期待を受け取ります。
ー所長・課長は、日頃から部下と話す機会も重要になりますね。
三浦:この会議を補完する意味で、一人ひとりが成長実感を得られるように「1 on 1」面談も仕組み化しました。1 on 1も活用して日頃から部下をよく知っておかないと、成長実感会議で話すことができません。今後は、さらに発展させ、支店長と所長、支店長と次席の間でも1 on 1を取り入れていきたいと思っています。まずはミドルマネジメントから着手し、継続・強化するためにより上位レイヤーに展開していくイメージです。
成長実感会議は、
アピールの「その先」が肝心
ー高間さんは、成長実感会議に企画段階からかかわり、実際にご自身も部長として会議に臨まれました。
一連の取り組みをどのように感じられていますか。
高間:ここ数年、管理職が横断的に参加する組織開発系の研修で意識改革に取り組んだり、新たな評価基準を導入して成果と評価・報酬をより連動させ、責任感ややりがいをより感じられるようにするなど新しいことを始めています。
その中で成長実感会議に参加し、管理職はもっと部下のことを知らなければ良いアドバイスもできないと感じました。一人ひとりが成長を実感できるか否かは、管理職の能力次第ということを伝えなければいけないし、私たちからその見方・考え方を教えなければいけません。個人の能力が上がればチームの能力も上がる。そしてチームのレベルが上がれば、個人はさらに大きな視野で高い目標を目指せるようになるでしょう。
もっともっと後輩・部下を
知らなければいけない
ー上司にとっては後輩・部下の成長を意識する上で、良い契機になりそうです。
高間:この会議は“行事”にしてはいけません。所長・課長は必死になって部下をアピールします。しかし、アピールで終わってしまってはいけない。次の成長・成果に結びつけなければいけないのです。私たちも所長・課長から「次に何をさせたらさらに伸びると思いますか」をもっと聞き出しアドバイスすることが大切です。最終的には、所長・課長の言葉でその期待や「想い」を伝えることが、ポイントです。
高間 浩司 氏
また、社員一人ひとりにもっと権限を与えていいと考えています。大事なことは権限に伴う責任感をもつこと。そして「こうしたい、そのためにこう動きたい」という「想い」が何よりも大切です。あるべき姿を明確にしてアクションプランを立て実践する。成功しても失敗しても必ず振り返ることで「気づき」をもらえると考えます。
ー支店長・部長には、さらにどのようなことが求められそうですか。
三浦:当初より、そもそも支店長クラスは社員一人ひとりをどこまで知っているのか、という懸念がありました。支店にはいくつかの営業所があります。支店長は係長クラスや大きな得意先を担当している社員くらいまでは知っていても、もっと若い社員がどのような仕事をしているかを知らないこともありました。
高間:支店長・部長は、もっと部下を知らなければいけません。知っているからこそ、指導もできるはずです。例えば「支店長がこんなことまで気を掛けてくれているんだ」ということがあれば、後輩は嬉しさを感じるでしょう。成長実感会議に限らず、日ごろから支店長が部下を知り、直接ではなくても、例えば所長経由で「○○の件、先日の会議で○○さんの進め方を説明していたよ」と伝われば、本人のやりがいにも繋がるのではないでしょうか。
「人材レビュー会議」ではなく
「成長実感会議」
ー成長実感会議の企画・準備段階についても教えてください。
三浦:現場では「何が起こるのだろう」「どうやって進めるのだろう」と構えていたところもあったと思います。これを解きほぐすには人事の人間だけでは難しいため、営業部門の戦略部長や現場で最もマネジメントが難しい部署の人間にも入ってもらい、私たち自身が体感しながら企画を進めました。
実は当初、これまで支店長頼りだった評価を全員合議の評価にしようと考えて「人材レビュー会議」、つまり評価会議として企画しました。しかし「そもそもこの会議の目的とは?」「1年目に到達したい状態とは?」を議論する中、「育成」という誰しもが総論では賛成するにも関わらず、各論段階で曖昧になりがちなテーマを「本気で徹底的に考える場」が必要だという結論に至り、「評価ではない。成長実感だ、名前を変えよう!」と名称も変わったのです。
ー目的が変わることで、準備会議の進め方も変わったのでしょうか。
三浦:当初は、社外のコンサルタントのアドバイスを受けながら、3割座学、7割をロールプレイやスキルトレーニングに充てる想定でした。結果的には、座学なし、トレーニングも2、3割程度に留まり、むしろ過去の経緯や参加者一人ひとりの想い、他社の事例を組み合わせながら、「私たちは何をしたいのか」を考える会議をファシリテーションしてもらう形になりました。ぎゅーっとコンセプトを凝縮した共通認識を持てたことで、本番もある程度上手くできたと感じています。
ー今後、一連の取り組みについて、どのように発展させていかれるのでしょうか。
三浦:支店長は「いい時間だった」「今までこんな時間をもったことはなかった」と、本音7割くらいで言ってくれました。一方、私たち事務局は大きく3つの課題を挙げています。
まず、支店長・部長クラスのポジティブな反応は、初めての取り組みだったことも大きいということ。この会議は、とても時間がかかります。1人の社員あたり20分をかけるため、人数の多いブロックでは3~4日程度要します。普段忙しく飛び回っている支店長クラスの時間をそれだけ確保しているのです。今回は初回なので新鮮でしたが、次回以降、クオリティを下げずむしろ上げていくために工夫しなければなりません。
次に、所長・課長クラスの現状がよくわかるということ。部下を見ている・見ていない、部下に愛情をもっている・持っていないなどが如実にあらわれます。中には部下の健康面や子どもの話も交え「こういう状況で頑張っているんです」と論理的・情緒的にプレゼンテーションできる方もいました。今はかなり濃淡があるので、今後は全ての上司が愛情をもって育成に臨むようにしていきたいです。
最後に、一般社員へのインパクトです。ちゃんと効果が生まれているか、定量・定性で観測し続けなければいけません。昨年4月から毎月1回、3分程度で終わるアンケートをしていますが、「成長を実感できたのか」など効果に関する質問について、昨年末ごろからじわじわとスコアが上がってきました。今後は若手のメンバーに変化や効果を直接聞いて定性的なインパクトも見定めながら進めようと思っています。
幸い今は、業績が好調なことも追い風になっています。経営は甘くはないので、社員のやりがいや成長実感を上げるように常にポジティブ・メッセージを発信しならも、個人もチームも成長して業績に繋げられるように取り組んでいきたいと思います。
社員一人ひとりのやりがいに注目する企業は増えていますが、本例のように上司の時間をしっかりと確保して一人ひとりの社員について議論する仕組みの導入にはかなり胆力も必要だと感じました。全会議にファシリテーターとして参加するという、人事やビジネス・パートナーという役割も今後ますます発展していく予感もいたしました。
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