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ゲリラ人事のすゝめ
~ ゲリラ人事対談(2)後半 ~

「会社らしさ」を見直すため
人事主導でイベントや他社ヒアリング

入山:では、坪谷さんはどんなゲリラ的施策を仕掛けたのでしょうか。

坪谷:いくつかあるのですが、1つは「アカツキらしさの種まき」です。事業が急成長する中で、社員も急増しました。すると、アカツキらしさや理念の共有が薄れ始めてきた。創業メンバーたちに濃く流れる「アカツキの良さ」が、新しいメンバーへは十分に伝わっていないと感じてきたのです。

そこで、人事企画室WIZにて「アカツキらしさとは何か」を探る旅に出ることにしました。

入山:企業理念やビジョンの共有は、日本企業に欠如しているもののひとつ。グローバル企業はこういった機会をたくさん設けていますが、日本企業にはあまり見られません。その意味でも参考になります。

坪谷:実際にやってみると、アカツキについて熱く語れる人はたくさんいて、話が止まらなくなるほどでした。工夫したのは“場”のデザインで、ある回は、釣り好きの社員を中心に、彼が釣った魚を食べながら理念について語り合いました。ワークショップ感がないことで、話も盛り上がったと思います。

さらに「アカツキらしさ」を明確にするため、私たちで勝手に理念の似ている企業へ「その企業とアカツキとの違い」をヒアリングしに行きました。相対化する中で、アカツキらしさも見えてきたのです。そして社内および有識者とのディスカッションなどを繰り返して、アカツキらしさを浸透する方法論を見出していきました。

2つめのゲリラ的な施策は、人事企画でのスクラムの実施です。スクラムとは、ソフトウェア開発のフレームワークで、それを人事企画室にも持ち込みました。アカツキのエンジニアから学んだほか、スクラムの生みの親である野中郁次郎氏の元にも足を運び、認定スクラムマスターの資格も取得しました。

3つめは「草の根キャリア研修」で、キャリアで悩んでいるメンバーに向けて、自分のこれまでを振り返ったり、一人一人の「Will・Can・Must」を語ったりするワークショップを個人的に開催していました。すると、次第に参加者は増えて、70人ほどが参加するまでになりました。

対談

上司や同僚とどう「握る」か
「斜め上」「チルドレン」がカギ

入山:先にお話しいただいたロームの木村さん、そして今、加々美さんと坪谷さんのお話を聞くと、3社の置かれている環境や立場は大きく異なります。ロームは長く確立された製造業の大手であり、どうしても内部が固まりがちになるところを、木村さんがゲリラ的に動きました。加々美さんのパーソルキャリアはトップダウン感が強かった中で、どうゲリラ的に上を動かすかという問題でした。

対して坪谷さんは、まだ若い企業です。ゲリラ的な施策に対するトップの考えはどうだったのでしょうか。

坪谷:その点で、アカツキはゲリラ的な施策を経営層が止めたり、障壁になったりということはありません。“上”と握るのは難しくなくて、むしろ“横”の事業部間や職種・地域を超えるのが大変でした。そこをどう握っていくかが重要でした。

入山:なるほど。加々美さんの場合は上、坪谷さんの場合は横との握り方が重要だったと。ゲリラ施策では、味方を作る意味で「握る」という作業が重要になると思います。お二人は、そこで何を心がけていますか。

加々美:まず木村さんの話と似ているのは、私も「斜め上」の人たちとの信頼関係があることです。

たまたまボードメンバーにかつての上長がいたり、斜めの上司でキャリアや仕事そのものの相談などをしてきた人がいて、彼らとは人間関係が一定構築されています。私のやりたいことやその世界観、背景などに理解を示してくれることは大きいと思います。

加えて、部長陣やマネージャー陣とは頻繁にご飯を食べたり、お酒を飲んだりしています。オフサイトの場では、管理職として、一人のビジネスパーソンとして、今何を考えていて、何に困っているのか、将来どんなことをやりたいのか、組織をどうしていきたいか等を話してくれるので、現場そのものの理解にも繋がります。

また、私からも、ボードメンバーで考えていることやこれから経営としてやろうとしていることを話すことも多く、形式的ではない、密でリアルな意見交換ができ、取り組みのアイデアそのものをもらえることもあります。こういった現場との繋がりは実は人事として大事にしていることです。

坪谷:私はほとんど飲みに行かなくて、それよりも冒頭で触れたGUNSHIとしての直接支援がポイントになっています。つまり、本当に困っているリーダーと真摯に向き合い、相談に乗ることで、彼らも私たちを信頼してくれる。結果、私たちが何かをやろうとすると、理解し協力してくれます。

入山:加々美さんは、飲む場などを通して「斜め上」や現場と関係構築をしている。坪谷さんは、リーダーと深く付き合う中で、信頼関係を作る。自分の「チルドレン」を増やすともいえるでしょう。ゲリラ施策がうまく行くかを考えるとき、キーワードとなるのは「斜め上」や「チルドレン」かもしれません。味方の作り方がカギだと感じました。

対談

“独りよがり”にならないために
自分が頼るべきものは何か

入山:最後に、お二人にも木村さんと同じ質問をしたいと思います。ゲリラ人事の場合、「本当にそれを進めるべきか」という問いに直面することもあるはずです。独りよがりの施策になってはいけないですよね。その点について、どう考えますか。

坪谷:やはり、一人の人間として立つことが大事ではないでしょうか。会社や周囲の流れという外部要因ではなく、自分が「人として正しいと思うこと」を実行する。鳥の目も虫の目も大事ですが、人の目を持って判断し、人として伝えることができれば、バランスは大きく崩れないと思います。

加々美:大前提として、人事は会社が顧客の「攻めの営業職」であり、その会社に対する組織・人事領域における課題解決者。また、コンサルティングのように課題と解決策の絵を描いて終わりではなく、解決策を実行しなければなりませんし、会社や組織の変化まで追い続け、常に一緒にPDCAを回し続けなければならないと思っています。その実行観点で、あまり組織の秩序や階層は気にしません。動けなくなりますから。

ただし、ボーダーラインは持っておきます。最低限の人としての常識や倫理観、人事パーソンとしての立ち振る舞いは意識する。そこだけ外さずにとにかく実行する。そしてダメなら潔く捨象し、やり方を変える。その心意気や柔軟性が必要だと思います。

入山:やはり大切なのは自分自身の良心や常識、さらには自分が楽しいと思うかどうか。そこが判断基準になるということでしょう。実際、みなさんが自分の信念や楽しさを尊重していることが伝わってきました。

ゲリラ施策といっても、決まった成功のマニュアルはないでしょう。会社の状況や文化を踏まえつつ、人事それぞれの個性や特徴を生かしていく。皆さんのお話を伺って、それが大切だと認識しました。このようなノウハウを共有して、日本企業の人事からどんどんゲリラ的な施策が起きてほしいと思います。今日はありがとうございました!

対談

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