INITIATIVEイニシアティブ対談
異なる業種の企業の人事が
これからの人材育成について対談
ルーツの違う二人だからこそ
見えてくる日本の未来についてご紹介します。
The Dai-ichi Life Insurance Company, Limited第一生命保険株式会社
Mitsubishi Chemical Corporation三菱ケミカル株式会社
若手だけでは足りない。今、「ミドル層」のグローバル人材育成と向き合う
グローバル化に力を入れる大企業、
第一生命×三菱ケミカルの人事がぶっちゃける
グローバル化が進む中、人事でもグローバルな戦略が求められています。特に重要なのが、グローバル人材育成ではないでしょうか。
「若手の育成は大前提。でも、グローバル化が目の前に差し迫る現状で対処すべきは、直近のリーダーとなるミドル層のグローバル化」と意気投合するのは、第一生命の人事を務める原由也氏と、三菱ケミカルの人事を務める八木武人氏。
第一生命は、近年M&Aで海外企業を買収し、一気にグローバル運営へ舵を切った企業。三菱ケミカルは、海外に多数の拠点を持つ大グループです。イニシアティブ(※)にも参加いただくなど、グローバル化に力を入れる両社の人事は、「ミドル層のグローバル人材育成」についてどんな考えを持っているのでしょう。その難しさと解決策を2人がぶっちゃけます。
ウィル・シードが主催する、G-HRD(グローバル人材育成)のための勉強会。部長向けの「イニシアティブ」と、20代〜30代の若手向けの「イニシアティブ・アクト」がある。
原 由也第一生命保険株式会社
人事部 人財開発担当兼採用担当 部長
八木 武人三菱ケミカル株式会社
人材・組織開発部
人材開発グループ
グループマネジャー
「砂時計」に「地域統括会社」。
両社のグローバル化は進んでいる?
八木第一生命さんは、ここ数年で海外企業のM&Aを次々に実施してきました。一気にグローバル化を進められている印象ですが、社内でも変化を感じていますか。
原そうですね。私が入社したのは4年前なのですが、その期間だけ見ても大きく、急速に変わっています。変な例えですが、4年前は黒船が沖の方にいて「これから来るな」と。でも今はもう上陸しているような(笑)。
弊社は創業から116年経つ企業ですが、最初にM&Aをしたのは10年前。それまでは純ジャパニーズのビジネスできていた。それが今は、海外事業に関わる人材を中心にグローバル化が一気に進んできた印象です。私自身、キヤノンとコナミデジタルエンタテインメントでグローバル人事を担当してきたので、そういった背景もあって今ここにいるという感じです。
八木なるほど。
原三菱ケミカルさんは、事業も多様で、海外拠点も多いですよね。グローバル化は進んでいる印象ですか。
八木弊社の中でも事業によってグローバル化度合はバラバラです。役員は外国人、マーケットも海外という完全なグローバル事業もあれば、日本人の役員で国内マーケット対象の事業もある。そもそも事業内容が異なるので、グローバル化にも濃淡があるんです。とはいえ、現在、グローバルのヘッドクォーターとしてグローバル化を進めている段階です。
原これだけ大きな会社を全体でグローバル化するとなると、大変ですよね。グループ会社はたくさんあって、事業はバラバラ。国もさまざま。事業ごとのグローバル化の進捗も違って、御社はグローバル化の一番難しいところをやっているのでは。
八木まさに(笑)。ですから、やはり「すべてを統一的にやるべきなのか」という議論が常にあるんです。制度やら何やらを統一することが果たして正解なのか。むしろ、事業ごとに個別で見ながら、部分々々で整備するのもアリだと思うんです。
第一生命さんもグローバル化が進んでいるとのことでしたが、やはりグループ全体で統一的に進めているんでしょうか。
原弊社のグローバル化も方向性は一緒ですが、まだまだ海外事業ユニット中心の話。徐々にさまざまなユニットで海外とやり取りするケースが増えてきたものの、まだそこまで活発ではないんです。いわば砂時計のくびれたところが海外事業で、そこを通じて周りが少しずつ海外と関わり始めている段階。グループ全体がグローバル化している状況ではありません。
ただ、そのくびれが次第に大きくなって筒状になりつつある。しかも、すごい速度で。なので、御社の状況の一歩手前と言えるかもしれません。
八木確かにグローバル化のスピード感は凄まじいものがあります。
原たとえば、2年ほど前までは、買収した海外のグループ会社はどこか一歩引きながら我々を見ていて、彼らは彼らのやり方で進んでいた。でもグループ内の人材交流が活発になり始めると、彼らにとってのメリットがいろいろ見えてきて、「もっとグループで一緒にやろう」と言ってくる。しかも海外の企業は意思決定がスピーディなので、下手をすると、本社がせっつかれてしまう状態(笑)。このスピード感はすごいものがあります。
八木それは同じかもしれません。海外のグループ会社とやり取りすると、スピードをもって決めていける方がウケがいいですから。日本とのスピード感の違いは絶対的にあって、当然グローバル化は海外が相手ですから、速度は速くなります。
次のリーダーになる「ミドル層」の
グローバル化はどうする?
原急速に進むグローバル化の中で、直近の課題となるのが「グローバル人材の育成」です。これはおそらく、いろんな会社の人事の方が悩んでいるところ。弊社も2年目の社員を海外に派遣するなど、若手の育成システムは作っています。
八木私たちもグローバル人材育成の段階的なステップを設けるなど、社内制度を整備しています。
原若手の育成はもちろん必須なのですが、あくまでそれは中長期的なプラン。さっきも言ったように、グローバル化の速度は想像以上に速い。となると、若手の育成だけでは間に合わなくて、部長・課長くらいの、広く言えば“ミドル層”をどう育成するかが大きな問題です。
八木本当にそう思います。弊社は事業ごとにグローバル化の進捗に差がある。若い世代はもともとグローバルへの意識が高い世代ですので、事業によらず今から時間をかけて育てていけるかもしれませんが、ミドル層は個々人や事業ごとにかなりバラつきがある。意識にも差があるわけで、それをどうするか。
原弊社も、ミドル層におけるグローバル人材としての能力や意識のバラつきは顕著で、彼らが入社した時は、グローバルとは無縁の会社だと思っていた。それが一気にグローバル化したので差はどうしても出てしまいます。
八木しかも数年後には、ミドル層がグローバルでマネジメントしなければならない。先ほどのスピードの話じゃないですが、あと数年経てば今よりずっとグローバルな対応が求められる。若手よりも差し迫った問題です。
実際、現場ではそれを感じているんです。たとえば弊社は海外研修の制度を設けていて、若い層が行くことを想定していました。でも、各事業部ではもう少し年齢の高い層を行かせようとする。要は、その層のグローバルに対する意識レベルが足りないと感じているんです。
原ミドル層は数年後にリーダーとなるわけで、そこの対応は急務ですよね。しかも、その育成はすごく難しい。若い人はグローバル人材に必要なもの、基礎になるものを提供すればいいけど、部長や課長となるとリーダーシップを始め、他の要素もいろいろ加味しないといけない。
八木私たちは、これまでミドル層もすべて取り込んで底上げしようとしたこともありますが、上から下まで全ての層をターゲットにすると育成を進めにくいことも痛感しています。
原グループが大きくなるほど、そうなりますよね。
八木となると、言い方は難しいのですが、上から下まですべて取り込むのではなく、あるターゲット層にフォーカスするのも一つの考え方かなと。でないとこのスピードに間に合わない。そもそも、今後、弊社でキャリアアップしていくには、「グローバルにビジネスをマネジメントできる」ということが求められると考えています。ならばそういう方向に絞るのもあるのかなと。
原どこを重視するかは大切なポイントです。たとえば純粋に仕事のパフォーマンスは高いけど、英語ができない人材がいる。あるいはその逆もある。英語だけの問題ではないのですが、例として。その場合、どっちにフォーカスするのか。これはすべての人事が考える問題です。
八木社員の年齢が上がるほど、その見極めが必要です。
原そういう意味では、若手層の育成はしつつも、移行期を乗り切るリードタイムを作ることにも力を入れた方がいいかもしれない。たとえば弊社は、40代以上の社員の場合、グローバルマーケットに進出するなんて考えてもいなかった人材が多い。一方、海外M&Aをした後に入ってきた若手社員は、グローバル化を見て入っている。意識レベルに大きな違いがあるわけです。
それなら、若手世代が育つまでのリードタイムをいかに作るかを考える。ミドル層でグローバルな人材は少ないし、かといって外から取るにも限界がある。それなら、たとえば英語ができないミドル層のリーダーについては、海外グループ会社の人材を有効に活用して、リーダーの補佐役を担ってもらうとか。グループ全体で、チームダイナミズムでカバーしていく。そうやってうまく移行していきながら、中堅・若手を中心とした組織全体の育ちを待つような。そうした仕組みづくりを、これからの5年10年でやっていかないといけないのかもしれません。
失敗を恐れずスピーディに、シンプルに。グローバル人事のあり方
原本当にこれからグローバル化は加速していくでしょう。
グローバル化の施策はいろいろありますが、一番大切なのは「それが会社の成長につながるか」。グローバル化の施策やフレームワーク、人材育成が会社の成長や戦略にミートしないといけません。そこを飛ばして形だけに走るのは良くない。
八木だからこそ、先ほどの話に戻ると、グローバルで何を統一することが正解なのかと。それは思います。
原国ごと地域ごとに独自の企業文化があって、たとえば日本には家族手当があるけど、海外にはない場合、統一のためにそれを取り払って良いのか。その制度を否定してまで統一した先に成長があるか、ですよね。おそらく、何万人という全世界のグループ会社の中で、世界統一された制度で活躍できる人ってほんの一握りだと思います。その人たちのために、本当ならローカルの制度の中で活躍できるはずの人たちを阻害していいのか。
八木そうですね。すべての施策は何のためにやるかを検証しないと。あとは、経営陣と密にディスカッションをすること。
原少なくともトップに近いところのメッセージをフィルター無しに聞ける環境は大事です。そうしないと、地図のない状態で羅針盤の役を任されることになりますから。
八木各施策をなるべくシンプルにしてスタートすることもポイントだと思います。弊社の日本サイドは、最初から「こうなった場合はこうする」というパッケージを細かく作りがちですが、そうするといろいろな質問が来る。「では、こうなったらどうする?」と。結果、時間がかかるので、シンプルスタートの方が良いでしょう。とにかくグローバル化のスピードは速いですから。
原スピードは速くて、しかも正解がない。だからこそ早回しというか、多少失敗してもいいから、スピーディにトライするべきです。失敗を怖がり始めるのが一番よくないかも。それが、この時代におけるグローバル人事の覚悟ではないでしょうか。
グローバル人材育成は多くの企業にとって重要な課題。若手の育成はもちろん、組織全体が育つまでのリードタイムにおいて、ミドル層が活躍できるようにカバーする仕組みや仕掛けを、海外グループ会社の協力もうまく得ながら構築する。その両輪を考えることが大切ではないでしょうか。ただし、グローバル化の進捗は速いので、それらをスピーディに決断してトライすることが必須です。