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採用と育成をつなぐ、内定者フォローの新たな視点とは

売り手市場が続く新卒採用。多くの企業が早期選考や内定受諾に向けた取り組みに注力しています。しかし、こうした取り組みがどれだけ入社後の成長や定着につながっているのかは不透明で、昨今では新入社員の早期離職も話題となっています。本コラムでは、若者のキャリア形成や能力開発の文脈にも触れながら、これからの採用と育成の接続のあり方を捉えていきます。

※本コラムは、2024年5月に開催された日本の人事部主催「HRカンファレンス2024-春-」にて弊社が行った特別講演「内定者フォローの新たな視点 ~学生の本音を理解し、採用と育成を「つなぐ」内定期のあり方を考える~」の内容を一部抜粋してご紹介します

■早期離職の若者に垣間見える初期キャリアの捉え方

キャリアに対する3つの「誤解」
早期離職する若者の近年の傾向について、キャリアに対して3つの「誤解」があると考えています。

①短期間での見切り ②天職探しモード ③想定外への不安

「短期間での見切り」とは、従来キャリアは「生涯を通じて築くもの」だと捉えられてきましたが、成長を求めて目の前の仕事を一定レベルまで深める前に短期間で見切りをつけてしまうことを指します。二つめの「天職探しモード」は、今よりも自分の強みを発揮できる天職があると思い込みそれを探し続けている状態です。三つめの「想定外への不安」とは、キャリアの効率性の重視と失敗を恐れるあまり、想定外のキャリアは避ける傾向が強まっていることを意味します。これらが漠然とした不安を生み、特別な理由はなくても転職を繰り返す人が増えていると推測しています。

なぜ、こうした傾向をあえて「誤解」と表現しなければならないのでしょうか。ウィル・シードの見解では、キャリア形成の文脈において、日本企業のキャリアの前提と若者の意識に未だギャップがあると考えています。日本の企業では新卒一括採用が通例になっているため、専門性が前提の採用ではなく、ポテンシャル採用が一般的です。一方、近年の若者は、早期からキャリア教育を受けてきた影響もあり、「強みを活かして働く」「自分に合う働き方をする」といったキャリア観がベースに育まれており「個人主体」の意識をもって入社してきます。

両者の大きな違いは「キャリアを作る主体は誰なのか?」という点です。新卒一括採用は、会社が社員のキャリアをつくるという前提があります。元来から年功序列のレールも引かれているため、すぐに成果を出せずとも、強みや専門性を会社の中で探しながら長期的な視野で育成するイメージです。近年ジョブ型人事制度や職種別採用を導入する企業が増えていますが、新卒採用から本来的なジョブ型雇用を行っている企業は少なく、多くの企業ではまだこの前提が存在すると言っても良いのではないでしょうか。一方若者は「自分で自分のキャリアを築く」という意識が根付いているので、すでに持っている強みを発揮しながら成長を加速していきたいと考えている人が少なくありません。自己実現や生存不安の解消のために、成長環境を会社に求めているとも言えるでしょう。こうした「会社の前提」「若手のキャリア観」の違いが、入社後の若手社員の成長不安を増加させ、キャリアの誤解を助長していると考えています。

■キャリアの短期志向が若者のキャリア形成にもたらす影響

ビジネスパーソンとしてのベースを作る「筏下り期」
新卒一括採用をベースとする日本の組織で有効なキャリアの考え方について、リクルートワークス研究所所長の大久保幸夫氏は自著(『日本型キャリアデザインの方法』経団連出版/発行)の中で次のように解説しています。
日本の組織には、プロフェッショナルになる道筋に大きく二つの時期があります。

20代半ばから30代半ばにかけては「筏下り期」

30代半ばからは「山登り期」

「筏下り期」は、いろいろな業務を経験しながら自分の強みや関心を模索する時期と言い換えられます。ここを乗り越えて、挑戦領域を定めてプロフェッショナルを目指す「山登り期」に入っていきます。
「筏下り期」が30代半ばまでというのは長い印象がありますが、この時期は、ビジネスパーソンに必要な能力開発がなされる重要な時期です。ウィル・シードでは「筏下り期」に育まれるべき能力について、「X型能力」「Y型能力」の二つがあると考えています。

筏下り期に育まれる2つの能力
「X型能力」は、基礎的な業務を推進する力。いわば依頼された業務を着実かつ正確にやり遂げる力(着実性や効率性など)とも言え、キャリア初期に鍛えられるイメージです。一方、「Y型能力」は未知の仕事において試行錯誤して成果を出す力であり、プロセスが決まっていない業務でも能動的に考えて推進していける試行性や創出性などを意味します。20代の後半になると新しいプロジェクトにアサインされたり、異なるプロセスでの成果を求められたりしますが、Y型能力はその時期に挑戦を重ねながら育まれていくものだと考えます。
コロナ禍以降、「X型能力」と「Y型能力」の開発の課題が変化してきました。前提として両者の能力開発は非連続、つまりX型を鍛えた延長でY型が鍛えられることはありません。働き方改革やコンプライアンスを重視する働き方により挑戦の機会が減った昨今では、基礎力である「X型能力」ばかりが育まれてしまい、「Y型能力」開発へのジャンプが難しいとされていました。しかし近年、キャリアの短期志向が高まっていることで、これまで鍛えられてきた「X型能力」までも、一定の業務経験が踏めないために育まれにくくなっています。そもそも効率性を重視する若者からすれば、ビジネスパーソンとしての基礎力である「X型能力」を高めたい意識自体が薄くなっている可能性もあり、X型もY型も鍛えられにくくなっていることが現状だと捉えています。

■リアリティショックを乗り越えるために、会社ができること

今こそコミュニケーションのあり方を見直そう
そもそも、なぜキャリアの「誤解」が生まれてしまうのでしょうか。やはりSNSで見る華やかなビジネスパーソンへの憧れや早期からのキャリア教育の影響は大きいと考えます。「あなたがやりたいことは何?」と問われ続け、納得できるものが見つかるまで探してしまう状態になっているのです。
一方で採用される側だけでなく、採用する企業サイドにも少なからず要因があるのかもしれません。採用プロセスで「若手のうちから成長できる」「あなたのやりたいことが実現できる」といったメッセージをくり返して伝えたり、新規事業を担当している先輩社員の話を聞く機会を設けるといったアプローチで魅力付けに注力しているのであれば、若者の誤解を助長している可能性があります。華やかなキャリアが待っていると思って入社したにも関わらず、新入社員研修や配属後のOJTでは、企業や組織への適応を促すアプローチを受けて困惑したという新入社員の声も聞こえてきます。このように、会社側の関わり方のスタンスが変わることも若者を惑わせる要因の一つといえるでしょう。

リアリティショックは「防ぐ」から「乗り越える」へ
新入社員のリアリティショックを防ぐために、すでにさまざまな情報開示を行っていることでしょう。会社の制度や実際の職場の様子などをネガもポジも含めてオープンに伝えたり、先輩社員のリアルな経験を話してもらったりと、働くイメージの解像度を高く持ってもらうための工夫をしているのではないでしょうか。
それでも若者が「想定と違う」と感じ、想定外を乗り越えるメリットがないと思えば、早々に見切りをつけてしまいます。こうした現状を打破するために、リアリティショックは「防ぐ」から「乗り越える」という視点が欠かせないのではないでしょうか。仕事や職場環境の現実を知ることもリアリティショックを乗り越えるために必要ですが、それだけでなく、日本企業におけるキャリア形成プロセスへの理解を促す機会を作ることが欠かせません。
例えば、「筏下り期」を経て「山登り期」のステップがあることや専門性やスキルの作り方、現状の自分の強みに固執せずに業務の中で探求していくことの重要性、非認知能力と呼ばれる忍耐力や自制心を備えるべきであるなど、伝えるべきことはさまざまあります。
会社理解や職場理解に加えて、上記のような「キャリアの形成プロセス」についても内定期から段階的に伝えることで、若手社員が抱える必要以上の不安や焦りを防ぎ、想定外の出来事に対する心の準備が整うのではないでしょうか。

杉本 麻祐子(株式会社ウィル・シード HRD事業部 営業部長)

大学院修了後、TOTO株式会社入社。2017年ウィル・シードに参画し、コンサルタントとして人材開発支援を行いながら、高校生向け起業家プログラムのファシリテーターなどを務める。2023年1月より現職。オンボーディング施策や若手社員向けの新規コンテンツの企画・推進を行っている。

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