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【前編】社会課題に向き合い、企業人に”市民感覚”と志を取り戻す

2022年、ウィル・シードに発足したチーム、X-Border Fantasy(クロスボーダー・ファンタジー)。越境学習体験を通じて、参加者自身の志を掘り起こす機会を提供しています。X-Border Fantasyが提供するプログラムの一つ、「GIFT」についてご紹介します。

X-Border Fantasyが提供するプログラムの一つ、「GIFT」。約3か月間をかけて、社会課題と向き合う地域や起業家に伴走し、望む未来を実現するための課題設定と解決策立案にチャレンジします。仕事を離れて未知の分野に飛び込むことで、自分の志や仕事観を見直す機会になるほか、「会社のため」だけでなく、「社会のため」に何ができるのかを考え抜くきっかけにもなります。

前編では「GIFT」について、X-Border Fantasyの発起人である岸本 渉、中川孝晃、小林陶哉が、それぞれの思いを語ります。

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志を大切にして、仕事を通じて社会を変えるパワーにしよう

自分は、何のために仕事をしているのだろう?

岸本:私自身、プロボノ活動で社会起業家の方とご一緒したことがありました。問題解決に向けて何をしていくべきか、誰も答えを持っていないわけですし、これをやれば確実に成果が出るといったこともみえない。だからこそ、ありとあらゆる手札があると思ったんです。例えば過去の職場で培ってきたマーケティングのスキルをアウトプットしてみたりと、自分にできる限りの手段を尽くしました。それを相手に認めてもらえるかどうかは分からないけれど、それでもやってみよう、と。

結果的には受け入れていただけて、そのことにとても救われました。かつて、職場の志ある仲間と自分を比べては「自分には志がない」と、自分自身を責めていたところがあって。でも、自分にできることがあると思えるようになり、会社や仕事への向き合い方も変化しました。

自分がしたことで誰かに喜んでもらえる、誰かの役に立てる。すごく単純かもしれないけれど、これこそが働くことの意義だったり、仕事の本質だと思います。ただ、「私はあなたのことを一生懸命に考えてやりました」と思えるような体験は、普段はあまりできていないのではないかとも思っています。

中川:「GIFT」で目指しているところはまさにそこですね。「社会課題を解決したい」「誰かの役に立ちたい」といった感覚を呼び覚まして、仕事を通じて社会に対してギフトを贈っていけるような、そうした思いが持てるようになればと思っています。

「役に立ちたい」というシンプルな思いが、やがて社会を変えていく

小林:「GIFT」のキーワードの一つに〈市民感覚〉を上げています。言葉だけを聞くと、やや抽象的ですし、日本ではまだあまりなじみのない概念かもしれません。

言うなれば、一市民として社会課題解決に向けてどのように関わりをもっていくべきか、自分には何ができるのか、それを一人ひとりが自分ごととして捉えて小さくとも行動を起こしていこうとするような、そうした感覚を持つ人が増えていくことを願っています。

中川:「社会課題を解決していく」と言うと、公共性が高くて大それたイメージをもつかもしれませんが、自分の手の届く範囲からアクションを起こしていく、その積み重ねでしかないのかもしれません。会社というリソースを活用すればできる範囲は広がります。さらにはひとつの会社だけではなく、いろいろな人や組織と共創することで、ますます可能性は広がっていくはずです。

その前段階として、まずは自分が見えている範囲を少し広げてみたり、自分の中で凝り固まってしまっている考えをほぐすための小さなアクションをとったりしてみる。そうして実体験を重ねながら〈市民感覚〉をはぐくめる機会を、”GIFT”では提供したいと思っています。

 

仕事をしている自分、社会の中の一個人としての自分

小林:ウィル・シードではこれまでも社会起業家の方と社会課題に取り組むプログラムを提供してきました。ある企業さまのサポートをさせていただいたときに、入社してから着実にステップアップしてきてマネージャークラスだった方が参加されたことがありました。その方が、プログラムが終わってから「これまでずっと企業でソルジャー的に働いてきたけれど、社会起業家の方とご一緒してみて、あらためて私個人としての人生や働き方を、きちんと考え直してみたい」とおっしゃっていて。

仕事をしている本人と、社会で一個人として生きている本人が、どこか剥離していたのかもしれません。なんというか、〈市民感覚〉を取り戻す機会になったのかなと感じました。必ずしもセットになっている必要はないのかもしれませんし、そこまでうまくバランスを取ることは難しいものですが、そういうふうに考えられるきっかけになったのかなと思いました。

岸本:仕事をしている自分、社会の中の一個人としての自分。本当はつながっているはずですが、リンケージしていないことは往々にしてあります。むしろ、そもそも完璧に重なることはあり得ないかもしれない。ただ、働くうえで重なり合う部分を自ら模索したり、再評価や再統合を繰り返すプロセスそのものが重要だと感じています。

自分のことを良い意味で客観視したり、自分の仕事の価値をきちんと見定めようとすること。自分の仕事にプライドがありながらも、同時に謙虚さも持ち合わせているというか。その謙虚さのベースとなるものが〈市民感覚〉と言えるのかもしれません。

 

立場を超えて、同じ目線で関わり合うことが真の共創

中川:「GIFT」では、異業種メンバーと共に社会課題に向き合っていくことになります。非日常の環境やメンバーから刺激を受けることでイノベーション創出のヒントを得るといった、事業創出やビジネスアイデア重視のプログラム設計も可能です。しかし、私たちは参加者が等身大で社会課題に向き合うことで自分のパーパスを掘り起こせるような、そうした組み立てを意識しています。

”GIFT”のような越境学習には、いろいろなタイプがあると思います。例えば、地方から「地元の特産品を首都圏の人に広げるための打ち出し方をアドバイスしてほしい」とテーマをもらい、それを解決していくといったようなものもそうです。それはそれで良い体験ができると思いますが、「助けられる人・助ける人」という関係性になりがちです。本当に、それで共創できていると言えるのか、と。

岸本:”GIFT”では、ただ単に与えられたお悩みを解決するのではなく、提案先と一緒に走りながら「今、いちばん解くべき課題はなんだろうか?」といった、いわばテーマ設定から共に考えていくプロセス自体にも学びがあると思っています。

これを実現するために、社会起業家をはじめ、提案先の方と密につながって事業内容に入り込んだり、とことん話し合って互いの価値観を交換しあったりと、距離の近さがあることはプログラムの特長です。最終的に参加者がギフトとなり得るものを相手に差し出すことができるよう、我々も伴走していきます。

中川:社会起業家に伴走するプログラムの最中に参加者から「どの辺が落としどころですか?」と聞かれたことがありました。また、「効率的に進めること」ばかりに意識が奪われる方もいらっしゃいます。ゴールが明確になっていなければ動けない、もしくはゴール自体は所与のものとして疑わないといったスタンスが当たり前になってしまっているのかもしれません。そもそも社会課題は複雑に絡み合っていますから、解決方法はいくつもありますし、目指すべきゴールも一つとは限りません

ただし、あるタイミングからそうした姿勢ががらりと変わる。課題当事者の話を聞く、つまりは、「人」に触れたとき、自分たちにできることがあるならやりたいという思いがわくようです。

 

本気になるほどに本音が出る。そこで気づく自分の思い

中川:社会課題に取り組むとなると敷居が高く感じられるのか、「スキルや能力がないと役に立てないのでは?」「私なんかにできることがあるの?」という感覚を持たれる参加者の方は多いようです。

”GIFT”ではリフレクションの機会を多く設けていて、参加者が提案先と一緒になって思いや考えを言語化していくのですが、「外の目で見てもらったことで、我々も気づきが得られました」「企業目線で見ると、自分たちに足りていなかったことが何かを知りました」など、さまざまな感想が提案先からたびたび出ます。何もできないと思っていたけれど、自分の存在が何かを後押ししたという手ごたえを感じて、もっと相手に貢献したいという思いにもつながるようです。

小林:プログラムスタート直後は、苦労される方、否定から入ってしまう方もいるのですが、会社から離れて外に出て、異業種の方と一緒にプロジェクトを進めていくうち、次第に本音で話すようになるのです。

単に自分の素をさらけ出すというのではなく、一つの目標に向かって互いの思いを交わすうちに、自分の仕事への取り組み方、それぞれの能力やスキルを発揮することで生まれるチームシナジーを客観視できて、「ああ、こうした感覚で仕事をできたらな」と思えるようになるのかもしれません。そうしてめばえた参加者の〈個〉としての思いが、自社に戻られてから少しずつ周りに伝播して行くようなら、我々としてはこれほど嬉しいことはありません。

岸本:越境学習の第1人者である石山先生がおっしゃるには、越境とは「ホームとアウェイの往還」だと。GIFTもプログラムでは社会課題の現場に出つつも、プログラム外では現業に戻る。この行ったり来たりを繰り返すわけです。そこには当然、今の現場の仕事のGAPや自分自身の仕事観との葛藤がある。その葛藤を自分なりに統合して、リーダーとして前に進めるような支援が出来たらと考えています。

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後編では”GIFT”の概要や事例についてご紹介していきます。

X-Border Fantasy(クロスボーダー・ファンタジー)

岸本渉(きしもとしょう)
X-BorderFantasy室長。博報堂、ファーストリテイリングを経て、ウィル・シードに入社。コンサルタント・営業責任者を経て「越境で共創する、意志ある未来づくり」を志向する新プロジェクトX-Border Fantasyを立ち上げる。越境学習に可能性を見出し、様々な大企業リーダー変革の越境プロジェクトを企画・推進する傍ら、ファシリテーターとしても、組織で働き成果を出すこと、人が自分らしく自分の「本物」と繋がること、この両方を諦めない場づくりを追求している。

中川孝晃(なかがわたかあき)
X-BorderFantasyジェネレーター。楽天で新規営業、社長室にて秘書・経営企画業務、リサーチ部門でのBtoBのマーケティング支援等に加え、新卒2年目から育成を担当。部門の育成体系構築、英語公用語化プロジェクトなど一貫して人材育成にも携わりウィル・シードへ。X-Border Fantasyの原点となるPBL型越境サービスを顧客・パートナーと共同開発。その後も次々と前例に無い企画を共創パートナーと生み出し、ファシリテーターとしても場に立ち続ける。

小林 陶哉(こばやしとうや)
HRD事業部長。仏企業の日本進出コンサルティング業務に従事し、フランス投資ファンドと共同でヨーロッパ企画のエシカルコスメ商品を輸入販売するJV事業の立ち上げを代表として務めた後、ウィル・シードへ。オンライン教育事業やグローバル派遣事業、X-Border Fantasyの原点となる地域課題解決と連動した越境型プログラムなどの立ち上げ・開発に携わる。現在は国内事業の責任者。

 

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